地域支援事業

千葉県「健康増進教室」訪問記/帰国者の、帰国者による、帰国者のための健康広場をめざして

穏やかな秋の日の午前、千葉市美浜区にある公共施設の一室に、年配の男女が三々五々集まって来る。あちこちであいさつや世間話が始まる。もちろん中国語での会話だ。ここが噂の帰国者自主組織「健康増進教室」らしい。

近在から自転車で通う人が大半だが、電車組もいると聞いている。見知らぬ訪問者である私をちらっと目に留めながらカセットデッキを運ぶ人、机を整理する人など、慣れた様子で会場準備が始まる。
「ニイハオ」と声を掛けると、近くにいた人たちが笑顔で応えてくれた。早速紹介されたKさんの名刺には「中国帰国者自立互助会副会長」と書かれてあった。
やがて「健康増進教室」を側面から支える帰国者支援団体のKさん、Nさんも現れた。
時計が10時を廻った頃、テレビ画面に太極拳の映像が映し出され、「遠古文明」のメロディにあわせて、20名余りのメンバーによる簡化24式太極拳の練習が始まった。会場は室内だが、雰囲気は中国の公園で見かける太極拳の集団練習と変わりない。慌ててカメラのシャッターを切った。
続いては「日本人支援者との茶話会」だ。支援者のNさんとKさんがリードして、ひらがなや漢字のカルタ取りゲームを行う。 さらに台所用具の絵とその日本語が書かれたプリントを見ながら会話を楽しむ。学習という堅苦しさがなく笑い声が漏れてくる。
続いて先程の副会長が進み出て、帰国者だけの打ち合わせ会が開かれる。1週間後に開かれる地域の祭りに餃子模擬店を出店し、教室の活動資金を調達する計画だそうだ。
次は盆踊りの練習だ。大漁節、白浜音頭など千葉県ならではの曲目が続く。最後は有志による中国音楽の集い。胡弓奏者が奏でるメロディにあわせて合唱を楽しむ。
今日は中国語の歌だが、日本語の歌を練習する時もあるそうだ。
2時間半足らずの濃密な時間が過ぎた。「体力がついた」の声に納得する。
ここではまさに帰国者が主役だ。会場や機器の予約も分担している。プログラムづくりにも自分たちの意見を反映させる。今後は社交ダンスにも取り組みたいそうだ。支援者はできるだけお手伝い役に徹したい意向と聞く。
「健康増進教室」は3年前に誕生した。中国留学生Hさんが残留孤児や家族の健康問題解決に取り組む決意をしたのがきっかけだった。
中国の健康思想を取り入れて週1回太極拳をベースにした心身の健康増進活動を企画した。Hさんの熱意に呼応して地元の帰国者支援団体が支援に乗り出し、帰国者に参加をよびかけた。留学生の帰国後もその志は帰国者自身によって引き継がれてきた。同様の事例は福岡県でも耳にしたことがある。そちらは公園が会場なので会場費は不要と聞く。
異文化社会の中でストレスや不安を抱えるからこそ、帰国者の誰もが病気の改善、心身の健康増進を心から願っている。では、その願いを実現するきっかけはどうやって生まれるのだろうか。
帰国者や中国系住民の中にキーパーソンが現れて具体的なアクションを起こすことができれば願ってもないが、それ以外にも、支援者グループが帰国者同士や中国系住民の出会いの場を設けたり、太極拳を体験する機会を提供したりすることから始まる場合もあるだろう。
日本社会の事情に精通した支援者の側面支援は欠かせないにしても、帰国者の自主性や自助力を引き出す試みが今後各地で広まっていけばと願う。千葉の「健康増進教室」の取り組みは自助活動の例として今後も多くの示唆を与えてくれるに違いない。



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