地域生活支援推進事業

さいたま市「中国帰国者と家族のための介護講座」(報告)

介護保険制度がスタートして13年、中国帰国者の間にも少しずつ要介護認定を申請する人が増えている。情報に溢れる日本社会にあっても、普段、帰国者は言葉の壁から「介護保険制度」や「介護サービス」をめぐる情報から遠ざけられている。いざ介護が必要になった時、制度を正しく理解し、困難な手続きを乗り越えて、サービスの利用にたどりつくことは容易なことではない。利用開始後もケアマネージャーやサービス事業所とのコミュニケ−ションに齟齬が生じたり、入所した施設になじめず自宅に戻ったりするケースがあると聞く。当センターは、早いうちから本人及び家族に介護保険の予備知識を提供し、疑問や不安を少しでも解消してもらっておくことが大切だと考え、昨年度から、自治体や支援団体の協力を得ながら介護保険を正しく理解するための効果的なプログラムの開発と試行に取り組んでいる。


平成25年2月25日、中国帰国者支援・交流センター(首都圏センター)は、さいたま市の全面的な協力を得て、公民館で介護講座を開催した。帰国者は33名参加し、市(区)役所職員、ケアマネージャー、地域包括支援センター関係者、支援団体関係者10名も参観した。

講座は単調にならないように、制度に関することの他に、介助の体験学習も加えた二部構成で実施した。


第一部は介護保険制度の説明だ。多くの自治体は市民向けに冊子「介護保険の手引き」を作って(都市部では外国語訳の手引きを用意している所もある)サービスの内容や費用等、詳しく情報を提供しているが、帰国者にそれらの情報を全て一度に提供しても理解できず逆効果と考え、この講座では以下の点について大まかに知ってもらうことを目的にした。
(1)介護保険制度の目的と仕組み
(2)サービス(訪問、通所、入所)の概要
(3)認定申請手続きの流れ
(4)要支援、要介護の違い
(5)サービス利用の基本的な留意点。

興味をもって聞けるように、解説用のイラスト入りパワーポイント資料を作ってスクリーンに映した。要介護認定の申請手続の説明には即席風の寸劇を取り入れた。介護保険課の職員や支援・相談員にも出演していただき、よりリアリティーが加わった。ストーリーは主人公の帰国者二世を中心に展開させ、介護において二世の役割が大きいことに気づいてもらえるよう配慮した。

制度の仕組みを聞く帰国者


寸劇「介護保険、どうやったら利用できるの?」


実習「家族でできる介助のコツ」

第二部は介助の体験学習だ。埼玉県介護福祉士会の方による起床介助や着替え介助等のデモンストレーションを見た後、二人一組になって手ほどきを受けた。初めは戸惑い気味だった人も、すぐにヘルパーさんたちの優しさが伝わり、終始和やかな雰囲気で行われた。終了後のアンケートには「介護の理念や内容について少し理解が深まった」「今後もこのような機会があることを切に望む」などの感想が寄せられた。

介護を受ける帰国者の中には、言葉や生活習慣が違うことで訪問介護を拒否し、老老介護を続ける人もいると聞く。このような学習が介護サービスを利用することへの抵抗感を軽減し、ヘルパーさんとよい関係を築くための一助になればと思う。

一方で、全国的にみれば、帰国者が点在し、気軽に集って学ぶことができない地域も少なくない。そのような地域の自治体関係者や支援者からは、帰国者が支援・相談員等の助けを得ながら個別に学べるプログラムやツールを求める声もある。平成25年度、中国帰国者定着促進センター(以下所沢センター)には自治体への介護情報提供事業が加わり、支援・相談員や介護施設事業所向けの研修用資料や説明ツールの開発を手がけると聞く。今後は、所沢センターと協力・協働しながら、首都圏センターとして、地域での実践を続けていければと思う。(M) 



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